#30 千葉県浦安市舞浜1-13

確定申告で使う書類を探していたら(まだ終わっていません…)、予想外のタイミングで大掃除をはじめてしまった昨日深夜。

「思い出箱」と呼んだらいいのか、捨てられない、けれど出しておくほどでもないものをひとまとめにした場所に、懐かしいネームタグを見つけた。

ディズニーシーが5周年を迎える頃、わたしは直営のホテルに勤めていて。配属先はフロント課で、旅行で訪れたゲストから、舞浜や東京周辺の観光について尋ねられることも多かった。

土地勘のなさと方向音痴さをカバーしようと必死だった、岩手から上京したばかりの私は、いつも東京観光ガイドみたいなのを眺めて、有楽町線に揺られていました。

思えば今ほどインターネットも今ほど身近ではなかったですよね、13.4年前は。

今はどんなふうに接客をしているのかな。久しぶりに行きたいな。


わたしが胸元につけたことがあるネームタグは、写真の3つの他にもう一つある。

一番気に入っていたそれは、開園5周年のときに期間限定でつけていたもので、「SUGAWARA」とアルファベットで書かれた下に「IWATE」と書いてあるネームタグ。それぞれの出身地がゲストにもキャストにもわかったら、会話のきっかけになるね、みたいな趣旨だったと思う。

「岩手って、どこにあるんですか?」

「私、盛岡行ったことあります」

「すがわらさんは遠くからきたんだね」

「今度出張で釜石行くんだ」

「昔、青森に住んでいたよ」

チェックインの手続き中ってお客さん側は記入が終わると、少し時間が空くんですよね。そういう時間にネームタグの「IWATE」という文字をみて、「あのね」と声をかけていただくことが多かった。

「TOKYO」「CHIBA」「SAITAMA」が多いので、その中で「IWATE」って、目だつから話しかけやすかったんだと思う。

後ろにチェックインを待つゲストがずらりと並んでいるのが見えるから、長話はできないけれど。数十秒、それでも東北の訛りが聞けると、肩の力がふっと抜けた。


あるとき、70代のご夫婦が眉間にシワを寄せてカウンターの前に立った。

その日は手続きまでにかなりお待たせしてしまっていて、

お疲れだろうな、早く手続きをしよう、と心の中で思いながら「大変お待たせいたしました」と声をかけた。

二人とも無言。表情も硬い。…まずい。

住所や名前を記入している間に、部屋の鍵や、ご案内の紙ものの用意を2割増しで急ぐ。

「あなた、岩手のひとなの?」

奥様にそう聞かれ、「はい、岩手です。わんこそばが有名なんですよ」と返事した。

二人の眉間がふっとゆるんだのがわかって、あれ?と思い、ご記入後の住所を見ると青森県。

「東京来たの、はじめてだから」

ぶっきらぼうに話すおじいちゃんの言葉を補うように、おばあちゃんがさっきまでと別人のように饒舌に話し始めた。

聞くと、娘さんが関東に嫁ぎ、はじめてディズニーランドに遊びに来た。疲れたのでさきにチェックインにきた、そんな話だったと思う。後半は気が緩んだのか、青森の訛りがどんどん強くなって半分くらい聞き取れなかったけど、うんうん、とお話を聞いた。

「なんだかほっとした、ありがとうね」

ゲストサービスを呼んで、部屋までのご案内を頼む。ちょっと名残惜しい。ポーターはたまたま福島出身の女の子だった。さっきのお話を端的に伝えたら、にっこり笑って、

「こんどは福島のお話をしながら、お部屋までご案内いたしますよ」と、ちょっとだけ普段聞いたことのない福島訛りを出したのは、あの子のホスピタリティだったんだろうな。

出身が岩手でよかった、と思えた、出来事。

LITERSにお立ち寄り、ありがとうございます。

記憶は、この体のどこにいるんでしょうね。「ある」、より、「いる」という感じ。形を変え移動し、ときどき変身するような、記憶は、そんな なにか。



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