#35 菜園1丁目6-16

あのとき1歳8ヶ月だった息子は、あと2ヶ月で10歳。お腹の中にいることがわかって間もなかった娘は、7歳。

仙台のまちに私たちは住んでいた。

電話も通じなかった数日。インターネットの画面に、いや、正確に言えばTwitterでのやりとりに、わたしは助けられた。

物資はどこにどのくらい届くのか? 給水は何時から? 生きるために、すぐ必要な情報はTwitterが一番速かった。

でも、そんな「情報として価値のあるツイート」ではなかった、息子と二人で過ごす、避難所の夜を励ましてくれたのは。それは、「日常」。いつものアイコンのあの人が、ご飯を食べたり、仕事を頑張ったり、お風呂上りにアイスを食べたりしている、「日常」が見えたこと。

不謹慎だ、とか言って「東北が大変だから、わたしもツイートをおやすみします」なんてのを見ると、辛かった。

画面の向こうにある普通の日々は、「ああ、そこに戻ればいいんだ、戻るんだ」、と、遠くから目指したいと願う灯りのようだった。

どうかそのまま、恋人と喧嘩した、とか子どものオムツが外れたとか、ランチが美味しいとか、つぶやいていてくれ、と心底思っていた。


お弁当会社が避難所に差し入れてくれた、幕の内弁当、美味しかった。

「自分の自宅の方が近いから」と私たちの分の毛布を取りに行ってくれた、見知らぬ家族。

電気が通ってすぐ、ホットプレートを駆使して作った、具のない焼きそば。

停電で解凍しちゃったから食べてしまわなくちゃ、と、ろうそくの灯の中で焼いた場違いなステーキ。

悲しかった、辛かった場面にも曇り空にかかる天使の梯子みたいにスッと、優しさや、笑顔や、善意を浴びて、目の前に光がさす瞬間があった。周りが暗かったからこそ、その光は強く暖かに感じた。


8年目の今日は、万年筆を買った。菜園のpen.で選んだSAILORのクリアな一本。中に入れたインクは「陸前高田 ゆめブロッサム」。

つい先日、3月8日に店頭に並んだばかりのこのインクは「いわてのいいイロ発信プロジェクト」の中から店主の菊池さんが三色を選んだ、岩手のイロ。

便箋と封筒も一緒に買った。

あの人やあの人に、慣れない万年筆でたくさん手紙を書こうと思う。

今日もLITERSでお会いできて嬉しいです。ありがとうございます。

日々を普通に暮らすことが、まるごと、だれかの支えや幸せでもあったら。

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