#4 盛岡八幡宮へ

遅めのお昼を終えて、盛岡八幡宮まで歩き出した。初詣は外にいる時間が長いし、子どもたちにスキーウェアを着せて行く年も多いけれど、今年はスニーカーだ。

ふたりはスキップをして、走って、それを眺めながら私は歩いて、10分ほど。

バス乗ろうか! と時刻表をみたら、今日は土日祝日扱いで本数が少ない。また歩き出す。風が少し強い。

まだ15時そこそこの時間なのに、北上川の水面には彩度を少し抜いた西日のような光が反射していた。波はほとんど立たず、一枚の水の板。ずっと眺めていたい。けれど寒い。橋の上は寒い。

「ここ!写真撮りたい!」そう妹に言われて指さした方をみた。撮りたいポイントがわからなくて、どこを?と尋ねると「信号!こんなにどこまでも青なんて、うれしいもん」と言われ、カメラを渡す。うん、確かに。初詣に行く道中にぴったり。

寒さに負けてコンビニへ。ピザまんとあったかいお茶を買った。吐く息は真っ白。八幡宮に近づくにつれて、だんだんと人が増えてきた。昨年のお飾りを忘れてきたことに、ここで気づいた。

鳥居をくぐり進む。こどもたちとはぐれるほどではない、でもたくさんの人。ドラクエのレベルアップの効果音を口ずさんでいる人とすれ違った。いい鼻歌、ありがとう。

盛岡八幡宮は石畳の上に、12の干支が彫ってあって、せっかくだから亥を探したかったのだけれど、人ごみで酉と丑しかみつけられず。

お参りの列に並ぶ時間が好きだ。

前後に並んでいる人が、去年はこんなことがあった、とか、あの人が結婚したらしい、とか、帰ったらカレーを食べよう、とかそういう話をするのを聞いていると、夕方、マンションの明かりがポツポツとついていくのを見ている時と同じ気持ちになる。どこの家にも、その家の灯の色がある。我が家にも、もちろん我が家の色が。

“一円玉を浮かべることができると、いいことがある” という水の釜。兄はこういうのが得意なので1度目で成功。苦戦していた妹に「水面ギリギリでそーっと離すんだよ」と、私より少し年上の男性が声をかけてくれた。娘が4度目の挑戦で成功するまで側にいて、「できたーーー!」とガッツポーズしたら、嬉しそうにしていた。

我が家と同じお飾りを持っていたあの人の2019年に、佳いできごとがひとつふえますように。

強い風で、舞う火の粉。手をかざしてあたたまりたいのに、側に行けない。

小さい子向けのおもちゃも屋台にあった。いつごろまでこどもたちに「買って」とねだられただろう。今日二人が私に言った言葉は「わあ、きれいだね」だった。

寒いから、とモコモコに服を着せて、さらに熊耳がついたダウンのアウターにくるんでいた赤ちゃんの頃の初詣を少し、思い出した。抱っこしながらの人ごみと階段は、つまずきそうでそろりそろりと歩いた。私の顎のすぐ下から、乳白色の香り。糸より細い髪の毛がときどき、くすぐったかった。

初詣のあとは、ここで中華そばを食べたくなる。温かいスープを飲んでもすぐにはポカポカにならない。芯まで冷える、ってこういうことなんだろう。一杯を食べ終わる頃にやっと手の先に感覚が戻り、外にでる勇気がでてくる。

北上川を眺めながら帰路。

星と、街の灯がチカチカひかる。真っ黒な夜の川に、青や黄色の光の粒が向こう岸へ橋を。


一年がはじまりました。2018年秋に産声をあげた、このLITERSという場所も少しずつ賑やかさを増してきました。書き手のみなさん、お立ち寄りいただいたみなさん、ありがとうございます。

2019年も、限りなく日常に近い位置から、「盛岡に灯をともす人」に光をあてられる場でありたいと思います。

どうぞよろしくおねがいします。

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