HouseM 21

ただいま、

キッチンからは、なんだろう、スパイスの香りが。

「おかえり」

静かな音楽は、声よりも少し離れた場所から。

キッチンに声をかけたのだけれど、あれ、いない。

コンロには、大きなルクルーゼいっぱいに野菜とお肉がぐつぐつぐつ。

今日はカレーだな。

このルクルーゼはきれいな黄色。

彼女がこの色を選んだ理由は「カレーを作るのにぴったりだから」

「はやかったね」

今日買ったばかりなのか、見慣れない本といつもの裁縫道具を両方、いっぱいに広げた机の上。

背をぐーっと、大きくそらして、こちらにひらひらと手を。

手を洗おう。外から帰ってきて手を洗うのは、バイキンを落とすためだけじゃない。

1日分の言葉のやり取り。そのかけらが手のひらに残るから、それを一度リセットするのだ。強い言葉も弱い言葉も。

ひんやりと香る両手と一緒に、寝室へ。ベッドに一度腰を下ろす。

ここで背中まで預けてしまうと、一気に眠くなるので、ぜったい腰まで。

目に入るのは一枚の絵。

僕は絵を飾る習慣が彼女と生活するまで、まったくなかった。

「暮らす中に絵があるって、いいよ。窓が一つ増えたみたいになるし、とっても気持ちよく過ごせるから」

うん、たしかに。絵にも「おかえり」と言われているよ。

早めの夕食を終えてリビングへ。

彼女は、昼間の裁縫の続きを。僕は僕でのんびりと。

集中しているのだろう、口数も減って。時折伸びをする。

その背は我が家のもう一枚の絵。気持ちよく暮らしていける、窓のような。

ぱちんぱちん、と白いスイッチで電気を消していく。

また1日が。今日も1日が。ぱちん、ぱちん。

おやすみおやすみ。またあした。


これからこの家で、どんなふうにドアが日々開き、

「おはよう」「おやすみ」「ただいま」「おかえり」

どんなにたくさんの言葉が交わされるのだろう。

シャッターを切る手をとめて、ついその姿を思い描いてしまいます。

それは、ここが、ただの物件でもなく、建物でもなく。

「おうち」だからなのかもしれません。


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Due Mani コップワインの会

4月5日金曜日。17時半、夕暮れの紺屋町。

春一番だったのか強い強い風が吹いていて、上ノ橋のちょうど真ん中で傘がひっくり返った。

雨もバラバラと強い音。

傘を両手で握りしめて、やっとたどりついたDue Mani。四角い窓から中を覗くと、並んだワイン、準備の整ったカウンター席、お料理を作る小澤さんの背中がちらりとみえました。

外の青と対照的な、お店の中の暖かなあかり。

1日だけのお手伝いとはいえ、少し緊張します。だってDue Maniだもの。

中に入ると、早速今日のワインを開栓。毎回その日、お客様を迎える直前に開けるんですって。

少しずつグラスに注ぎ、テイスティング。産地やぶどうの品種のお話なども聞きながら。

わたしは「ワイン」っていうと、若い時に飲み放題で飲んだイメージが長いこと取れなくて。渋くてあっという間に悪酔いしてしまうお酒、という思い込みから「おいしいなあ」と思えるようになったのはここ数年の話なんだ、なんて話をしたら、

「確かに、最初に飲むワインって大事。だから、コップワインを始めた、というのもあって。若い人や、今までワインはちょっと…と思っていた人にもコップ一杯から気軽に試してほしいよね」と、小澤さん。

今回はこちらの5種類でした。お二人とも一種類、口に運ぶごとに「うん、これは美味しい」と太鼓判。

一番右と、右から二番目はどちらも赤ワインなのですが、ベルツメインとカベルツメインという名前で、ぶどうの品種が違うのだそう。飲み比べると、確かに。季節なら春と夏、色なら黄緑と緑。よく似ているけれど微妙に差し色が入るような違いが。

開店の18時。

さっきより雨足は弱まったけれどまだ雨。そんな中、ご予約のお客様がご来店。

「雨の日に、こういう場所で美味しい食事とワインって、晴れの日より贅沢な気がするわよね。時間の流れもゆっくりで。」

雨、だからこそ大好きなものを、大好きな店で。んー。素敵な考え方です。

コップワインの会は、お料理が2品。まずは前菜の盛り合わせ。

・田村種農場さんの切り干し大根と、ドライトマト

・牛レバーのムース

・田野畑村 山地酪農さんのクリームチーズと、桃・ラベンダーのジャム

もう一品は梅山豚(メイシャントン)肩ロースの赤ワイン煮込み。

お腹ぺこぺこでご来店の方はパスタやリゾットをアラカルトでオーダーしたり。締めには甘いもの!という方はスイーツを別でご注文いただいたり。

わくわくした表情でメニューを眺めているお客様の様子、嬉しかったです。

だれかのお腹と気持ちを一度に満たしてしまう、「おいしい食事」というのはすごいなあ、と改めて。

気軽に気楽に、コップワインで乾杯しながら、美味しいお料理を頬張って。

カウンターにこの日並ばなければ、生まれなかった会話、出会えなかった人。

偶然と言い切ってしまうにはもったいないほどの、一期一会の空間にご一緒させていただいた、四月の夜でした。

帰る頃には雨もすっかり上がって、空気がまっさら。

今月はゴールデンウィーク後半の5/3(金)18時から。

一緒に乾杯!できたら嬉しいです。