美しさを逃さず、形に。[nishikata chieko]

おもわず溜息をついて、天井の梁を眺めた。「初めて来たとは思えないかんじ」と誰にというわけもなくつぶやきがもれた。バイオリンの音楽が小さく響き、窓際の白いカーテンはふわりと風でうごく。部屋の中、右手には見たことがないような器具が乗った机が2つ。中央にも大きな四角い机。だれもが懐かしい気持ちになるような心地よい空気の中、アクセサリーを作る西方智衣子さんは、「手にとって気持ちを豊かにし、身につけて心地よいもの。日常の風景や旅先で心動いた感覚を自然の力を使って表現したい」と話してくれた。そんな西方さんのアトリエ兼住居。蝉の声響く中、お話を伺った。

-今日は作品についてももちろんなんですが、このアクセサリーをどんな人が、どんな場所で作っているのかを知りたくて、お話を伺いにきました。鶴岡がご出身ですよね、海のある町。子ども時代、どんなお子さんでしたか?

子ども時代ですか(笑)

-はい、さかのぼりたいな、とおもって(笑)

きょうだいは3つ上に姉、3つ下に弟がいるので、俗に「変わっている人が多い」って言われる真ん中っ子ですけど(笑)ちっちゃいときは、おとなしい子だったよ、って言われます。人見知りが半端なくて。

-いつぐらいまで?

ずっと、ですね。展示会もあるし、人ともたくさん会うし……大丈夫なのか?って心配されていました。親からも、秋田でものづくりに関わってから変わったねって言われます。

-では、割と内向的な子どもさんだったんですね。何をする時間が好きでした?

おうちでお絵描きですかね。あ、うちの母親が割となんでも作る人で。お菓子とか、洋服とか。お弁当でも冷凍食品はもちろんなし、全部手作りで、っていう。そういう母からの影響は大きいのかもしれません。

-秋田工芸美術短大(以下 美短)に入ろうと思ったきっかけ、というか。こちらの方向に進みたいと考えたのは、いつごろですか?

進路を決めなきゃいけない高校3年生の時は、なにも考えていなかったんです、漠然となにがしたいんだろうなあ、みたいな。でも進路相談の時に「保育士かなあ」って先生に言ったんですよ。そしたら、「なんで保育士なの?」って聞かれて「飾り付けとか作るのがすきだから」っていう話をしたんです。

-……飾り付け?

そう(笑)そしたら「飾り付けが好きなら保育士じゃなくて、美術の先生に話を聞きなさい」って言われて。美術の先生にぼんやりと「こうなんですけど……」って話をしているうちに、ものづくりの道があることを知りました。「そうか、そういう道もあるんだ」と思って。

-その先生、いい先生ですね…。保育士になりたい理由を聞き、「あ!」って気づいて、美術の先生につないでくれた。

姉も同じ大学なんですよ、美短で。それを知っていた、というのもあるかも。

-鶴岡から秋田に引っ越してきて、2年間の学生時代、学校はどうでしたか?

当時は工芸美術学科とデザイン学科の二つがあって、わたしは工芸美術を選んで。2年目のコース選択でガラス、木工、鋳金(ちゅうきん)の中から一つを選ぶときに鋳金へ進みました。

-鋳金。あまり馴染みのない単語です。

鋳金は型を作って、1000度くらいの金属を溶かして流し込み、型を壊す。3つのコースの中で一番、原始的で、大掛かりでした。でも、今まで触れてこなかったこと、ここでしかできないことがしたかったんですよね。

-ガラス、木工、と比べたときに自分の肌に合うな、みたいな感じがあったんですか?面白かった?

うーん、肌に合うというか、大変だったので。大変なことをやろうかな、と。

-おおー。大変なことだからやりたい、だったんですね。ガラスや木工って想像つくんですけど、鋳金って、男の人が大きいものをゴンゴン!みたいなイメージです。本当に大変そう。

そうですね、「将来この道で食べていく」っていうのがまだ漠然としていたので、まず、ものづくりの基礎をがっちりと勉強したかった。それで、あえて大変な方を選びました。

-鋳物だから、大枠でいうと今の作品にもつながってますね。

鋳金の着色方法に、焼いて花器に模様をつけて仕上げるっていうのがあるんですけど、それをずっとやっていました。大学を卒業して、教務補助をしながら……。あ!そのころ、まど枠の伊藤さんという方から「その模様を身につけてみたい」と言われたことで、アクセサリーを作り始めたんです。

-まど枠の伊藤さんからの一言がなかったら、アクセサリーには進んでいなかったかも。

うん、そうかもしれないです(笑)アクセサリーは自分でも身につけられるので、作っていても楽しかったです。


-作品の着想、というか、インスピレーションはどんなところから得るんでしょうか? 作品を拝見して、主観ですが、自然……海や土のイメージなのかなと思いました。

これをみたから、この作品、という作り方ではないですね。自分の中で、きもちのいい形を探すというか。最初スケッチをして、手を動かす中でだんだん生まれてくるようなイメージです。

-実際に作業しているところ、みせていただいてもいいですか?

バーナーのゴーッという音と一緒に、独特のにおいが。
火であぶることで、泥の部分だけ温度が上がります。
シルバーを一番上にチョン、と。こちらまで息を止めてしまうような細かな作業。
水に沈めると、ジュッときもちのいい音。
冷えた泥を手で外すと、泥の部分が模様に。

-今後の展望についてお聞きしたいです。

えっと。定番として、ずっと作っているものとは別に新作を去年から発表し始めたんです。一年ごとに新しいものを、と思っています。

-毎年変えていこう、って思ったのは西方さんの中で理由がありますか?

そうですね、やっぱり、自分の中でいいなと思うものはどんどん変わってきていて。環境や、人や、住む場所も。

自分の周りに美しいものっていっぱいあるので、そこを逃さずに表現していくのが私の仕事だなって改めて思っているので。

-なるほど、そういう気持ちを反映させて新しいものを発表していく場を、ということですね。他にやってみたいこと、ありますか?

あとは、「全部でみせたい」というのがありますね。空間も考えて、トータルで表現する。わたしの世界観を知ってもらう機会を作りたい。

昨年のエントワインが、私にとって初めてのバイヤーさん向け展示会でした。クラフトフェアと比べると、少しゆったりとしていて、世界観も表現できますし、盛岡のお客さんって感度が高くてキラキラしています。たくさんのお客様とお会いできるのが楽しみですね。

今回ご紹介した西方さんも出展するentwine/エントワインには、東北から鹿児島まで『衣・食・住』様々なジャンルで活躍する27ブランドが集います。開催場所は、紅葉から秋を感じる盛岡市・旧石井県令邸。建物に美しく絡まる[つた/entwine]のように、出会い繋がる場所であってほしいと願って名付けられた三日間。たくさんの[縁/en]がうまれますように。

10/04(木)バイヤー様・関係者様のみご入場いただける商談日です。10/05(金)10/06(土)は一般のお客様もお買い物を楽しんでいただけます。