#1 小夏がもたらしてくれたもの


一年前、じりじりと暑い夏の日に。小夏は突然やってきたのでした。

まだ目も開かない、掌に乗るくらい小さな小さな仔猫。 「私はここにいます、ここにいます」と、庭の物置小屋と地面の僅かな隙間から必死に、 全身の力を振り絞り鳴いていました(猫は普段ほとんど鳴かないので、小夏はきっとあの時、 一生分くらい鳴いたと思う。そのくらい、生きたかったのだと思います)。 隙間に手を入れて助けたはいいけれど、今まで一度も猫と暮らした事の無い私と母。 もちろん何の知識もある筈がありません。 とにかく病院と猫カフェさんに連れて行こうと車を走らせました。

そこで言われたのは…
産まれて間もない子は24時間態勢で看なければならず、こちらでは預かれない事。2、3時間おきにミルクを飲ませなければならない事。赤ちゃんのうちは自力で排泄が出来ないので刺激して出してあげないといけない事。
「とにかく、一週間だけでもお宅でミルクをあげる事は出来ますか?」と。

 何にも知らな過ぎた頭を、ガンッと殴られたような衝撃でした。 もう考える余地などなく「やります」と答えた時、私は少しの涙と共に武者震いしたのを今でも覚えています。大袈裟かもしれませんが、全く経験した事の無い未知なる世界へ足を踏み入れるような感覚、と同時に「命を育む事」への恐れが根深く心に刻まれていたから (それは私がこれまでの人生で最も避けてきた事でした)。 今すぐに、誰かが助けないと生きられない小さな命。 「あなたがやりなさい」とその時、神様に背中を思い切り押された気がしたのです。 恐れずに今、向き合いなさいと。

それから、母と二人、二人三脚での子育てが始まりました。 病院でも猫カフェさんでも言われた 「赤ちゃんのうちは自分で体温調整が出来ないので、どんなに大切に育てても、ある日突然亡くなってしまうことがあります」という言葉が何度も頭をよぎります。 湯タンポや毛布で温めながらも、真夏の暑さからも守らなければと神経を尖らせる日々。 そんな状況の中、「ミルクくださいミャーミャー」と、寝床から元気な声が聞こえた時の嬉しさといったら…!

「小夏、今日も生きてくれてありがとう」って、心の底から湧いてく る喜びと嬉しさで…その頃を思い出すと、今でも胸がぎゅっとなるような、何ともいえない 気持ちになるのです。

哺乳瓶でミルクを飲ませ、トントントンとお尻を刺激して排泄のお世話をし。 抱っこしたり、寝かせたり。仕事が終われば早く小夏に会いたい一心で、家に飛んで帰る毎日を送るうち…私の魂の奥底に封じ込められていた「母性」が、ついにマグマのように吹き出したのです。自分でも驚くほどに。

そして…ふと気付いたのです。私の中の「小さなあきちゃん」が一緒に喜んでいる事に。 子育ての日々が、まさか自分自身のインナーチャイルドを癒す事になろうとは… 全く思いもよらない事でした。 助けたようでいて、その結果救われたのは人間のほうだった。本当に、動物って、人間を助けるために地球にやってきた存在なのだと、私は信じているのです。

小夏を保護した日から一年と四ヶ月経ち。 最初は母親の気持ちで接していた私ですが…立場がちょっと逆転した今、 私の方が彼女に見守られている感、大です。
小夏 19 歳(人間でいうと)・私 45 歳。またそれも面白い変化。

小夏、いつもありがとね。

RECOMMEND