HouseM 21

ただいま、

キッチンからは、なんだろう、スパイスの香りが。

「おかえり」

静かな音楽は、声よりも少し離れた場所から。

キッチンに声をかけたのだけれど、あれ、いない。

コンロには、大きなルクルーゼいっぱいに野菜とお肉がぐつぐつぐつ。

今日はカレーだな。

このルクルーゼはきれいな黄色。

彼女がこの色を選んだ理由は「カレーを作るのにぴったりだから」

「はやかったね」

今日買ったばかりなのか、見慣れない本といつもの裁縫道具を両方、いっぱいに広げた机の上。

背をぐーっと、大きくそらして、こちらにひらひらと手を。

手を洗おう。外から帰ってきて手を洗うのは、バイキンを落とすためだけじゃない。

1日分の言葉のやり取り。そのかけらが手のひらに残るから、それを一度リセットするのだ。強い言葉も弱い言葉も。

ひんやりと香る両手と一緒に、寝室へ。ベッドに一度腰を下ろす。

ここで背中まで預けてしまうと、一気に眠くなるので、ぜったい腰まで。

目に入るのは一枚の絵。

僕は絵を飾る習慣が彼女と生活するまで、まったくなかった。

「暮らす中に絵があるって、いいよ。窓が一つ増えたみたいになるし、とっても気持ちよく過ごせるから」

うん、たしかに。絵にも「おかえり」と言われているよ。

早めの夕食を終えてリビングへ。

彼女は、昼間の裁縫の続きを。僕は僕でのんびりと。

集中しているのだろう、口数も減って。時折伸びをする。

その背は我が家のもう一枚の絵。気持ちよく暮らしていける、窓のような。

ぱちんぱちん、と白いスイッチで電気を消していく。

また1日が。今日も1日が。ぱちん、ぱちん。

おやすみおやすみ。またあした。


これからこの家で、どんなふうにドアが日々開き、

「おはよう」「おやすみ」「ただいま」「おかえり」

どんなにたくさんの言葉が交わされるのだろう。

シャッターを切る手をとめて、ついその姿を思い描いてしまいます。

それは、ここが、ただの物件でもなく、建物でもなく。

「おうち」だからなのかもしれません。


HouseM21 HP

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