San Francisco Diary #2

“娘がね、ジャパンフリークなのよ。日本が好き過ぎて間も無く日本に移住するの。だからあなたの本屋さんを訪ねさせるわ。本屋さんの名前は何ていうの?”

気持ちの良い午後の昼下がり、ぼくは24thストリートにあるとても居心地のよい古書店でリラックスして店主と話をしている。

歳の頃は60歳近くか、丁寧に手入れされた白髪が美しい女性店主。

たくさん本を抱えてカウンターに辿り着いたぼくを暖かく歓待してくれた彼女の人生。その一瞬を垣間見たような。娘さんへの確かな愛情は穏やかに言葉を選ぶように話す彼女の語り口で十分すぎるくらい伝わってくる。

“おそらく娘さんは東京に住まれるのでは?”

”ええ、そうよ。トーキョー。”

そう言って彼女はにっこりと微笑む。

“残念ながらぼくの本屋は東京から電車で2時間半くらい離れた場所にあって”

“あら、そうなの。なんという街なの?あなたが住んでいるのは?”

”盛岡といいます”

“モリオカ?”

“はい、モリオカ”

彼女が怪訝そうな顔つきでぼくを見つめた。

全くいままで聞いたことのない地名に戸惑っているのか、それっきり娘さんの話は終わってしまった。

本の会計を終えて、大きな袋を抱え店を出ようとした瞬間、彼女がこう言った。

“モリオカには本を愛するひとがいるの?”

ぼくはにっこりと笑って彼女に言った。

”ええ。たくさんね”

“良い午後を”

“あなたもね”

外に出ると強い日差しが通りを照らし、人々は気持ちよさそうにぶらぶらしている。

5月のサンフランシスコの午後は少しだけ暑くなりそうな予感がした。

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