#5 前九年二丁目5-1

午前中の仕事の後で立ち寄った。
まだ新しい環境に慣れなくて、お腹も空いていたし、寒いせいか肩にぐっと力が入っていた。
お店の中は、私一人。
靴を脱いで、あの一番奥の席で本を読みたい、とも思ったのだけれど。
こないだ、一人壁に向かうこの席でご飯を食べていた女性の雰囲気が、
「まんぞくまんぞく」っていう空気そのもので。
あの席、次ぜったい座りたいって思っていた、「あの席」へ。
いらっしゃいませ、と一緒に置かれた白湯。
弱音なんて吐くつもりなかったのに、
なぜか
「今日ここ来る前の仕事、ちょっとがんばりすぎちゃって」
などと話している自分に驚く。
外は寒かった。
ここは、なんてあったかだ。
ことんと音を立てて、目の前に置かれた皿。
人参、白菜、カブ、かぼちゃ。
んーーあとはわからない。
わからないときはきいてみよう。
「赤い葉っぱはトレビス。ヨーロッパの野菜で苦味が特徴です」
「赤い茎のスイスチャードは、栄養満点だから、疲れが取れますよ」


焼いた野菜、揚げた野菜、生の野菜。
野菜野菜野菜を頬張る。
とんとんとん、まな板で切ってるのはなんだろう。
あ、唐揚げの音。
チチチチ、から、ジューとだんだん強く。
外を車が通るたびに、壁に映る葉が揺れる。
「コーヒーの木ではないんですよ。似てますよね」
うちにあった枯れたコーヒーの木を思い出した。

ジュースに入ってる氷さえ特別に見えるのは、
何か理由があるのか。
わたしのごはんがきた。
わたしのからあげ、わたしのおむすび。わたしのおつけもの。
私のための、わたしのごはん。


外の車に乗ったお二人がこちらをみて話をしている。
「ここにあったんだね」
「へー、いってみたいね」
心の中で、
「どんな言葉を使ったら、今の気持ちがあのお二人に届くのかなあ」
と考えた。
「いや、いっかい食べたらわかるよ」
っていうのが一番だな、という答えにたどり着いた。
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