
まだ新しい環境に慣れなくて、お腹も空いていたし、寒いせいか肩にぐっと力が入っていた。
お店の中は、私一人。
靴を脱いで、あの一番奥の席で本を読みたい、とも思ったのだけれど。
こないだ、一人壁に向かうこの席でご飯を食べていた女性の雰囲気が、
「まんぞくまんぞく」っていう空気そのもので。
あの席、次ぜったい座りたいって思っていた、「あの席」へ。

弱音なんて吐くつもりなかったのに、
なぜか
「今日ここ来る前の仕事、ちょっとがんばりすぎちゃって」
などと話している自分に驚く。
外は寒かった。
ここは、なんてあったかだ。

人参、白菜、カブ、かぼちゃ。
んーーあとはわからない。
わからないときはきいてみよう。
「赤い葉っぱはトレビス。ヨーロッパの野菜で苦味が特徴です」
「赤い茎のスイスチャードは、栄養満点だから、疲れが取れますよ」

野菜野菜野菜を頬張る。
とんとんとん、まな板で切ってるのはなんだろう。
あ、唐揚げの音。
チチチチ、から、ジューとだんだん強く。
外を車が通るたびに、壁に映る葉が揺れる。
「コーヒーの木ではないんですよ。似てますよね」
うちにあった枯れたコーヒーの木を思い出した。

何か理由があるのか。

わたしのからあげ、わたしのおむすび。わたしのおつけもの。
私のための、わたしのごはん。

「ここにあったんだね」
「へー、いってみたいね」
心の中で、
「どんな言葉を使ったら、今の気持ちがあのお二人に届くのかなあ」
と考えた。
「いや、いっかい食べたらわかるよ」
っていうのが一番だな、という答えにたどり着いた。