#55 本宮蛇屋敷外

「夕焼けごはん、久しぶりに行きたい」

18時過ぎるころ、夕ご飯の準備をし始めたキッチン。

冷蔵庫を覗いている私に、兄が声をかけてきた。

簡単なお弁当を持って、夕焼けをみながら外で食べるご飯のことを我が家では「夕焼けご飯」と呼んでいる。場所は盛岡市中央公園の見晴らしのいい、山の上。

「んーー」時計を見る私。今からお弁当を作って?中央公園まで? んーーー

キッチンの小窓から見えた外の色が、シャンパンみたいに、ふうわりとした黄色。

最近ずっと行けていなかったんだ。でっかい空が焼けていくの、今日は3人で見たい気分だ。

お弁当は時間的に無理だから、おにぎりを作ろう!、と話し、せかせかと作り始める。だが、そういうときに限って、「おかあさん、お米が…」妹の視線の先にある床を見ると茶碗2杯分ほどの白米がぼたっと落ちている…おーい…小学2年生の手のひらにはどう考えても余るよ笑 もう一度初めから。

窓の外はシャンパンからワンタンの皮くらいの黄色に変わってきた。いそげいそげ!

それぞれ好きな味付けをして、なんとか完成。中央公園まで車を走らせる。公園へ向かうその間も少しずつ、でもしっかりと赤い色味が空気に混じっていく。


駐車場に到着、もう空は「夕焼け」と呼ぶのにふさわしい、そう、焚火を思い起こさせるような暖かな色。

山の上まで階段をのぼる。一段飛ばしで駆け上がる二人。

いつのまにこんなに走るのが速くなったんだろう、そして、いつのまに私はこんなにギクシャクとして、滑らかさが足りない体になったのだろうな。


山の頂上には高校生の女の子が二人いて、夕焼け空を背景にして二人で手をぐーっと伸ばし、写真を撮っていた。

妹は、はっきりと通る声をしていて、そこがチャームポイントだな、って普段は思うんだけど、その声で「おねえさんたちがしているのは、『じどり』ってやつだね!!!」と言われたときは、そそくさ帰ったお姉さん二人の背中に謝罪した。

おにぎりを食べ終えるうちにどんどんかわる空の色。

ピクニックシートに寝転んで上を見上げると、もうすぐ半月というサイズの月がぼんやりと光っていた。

これ以上赤くならないだろうと思ったところからさらに強くなった赤色を一瞬見せて。次にあたりに満ちるのは、夏にしては涼しい、ただの夜だった。


LITERSへお越しいただきありがとうございます。

ただの白いおにぎり、ただの公園、ただの夕焼け、ただの家族、ただのあなた、ただのわたし。

そんな「ただの」日々。やっぱりそういうことなんだ。

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