ぽんぽんのこつこつ

4月に入ってから桜がぱぱーっと咲いて、黄砂がぶわーっと来て、道路の温度計は17度とか書いてあって目を疑い、もう春の背中を見送るような気持ちでいる。呼んだらもう一度くらい振り向いてくれるのかなあ。黄砂と桜の花びらの両方がくっついた車の車体はなんとも不思議な模様。洗車のタイミングに悩む。洗車している車を見るたびに悩む。

例年、春、という季節、私は忘れっぽさが通常より増すのだけど、今春暫定1位!と言える日がこないだあった。


朝、バッグも、車も、なんなら通ってきた道も、全部探したのに駐車券がない。「あ!早起きできたから、いつもより早い時間に入庫してるなー8時32分かー」って駐車券に印字された時間を確認したから絶対絶対あるはずなのに、ない。不思議ー…という気持ちと、なんでー?! という気持ち半々で車に戻り、鍵を開けようとした左手。その左手に駐車券があった。え?ずっとあった?みえてなかったの?おでこのメガネ探す「めがねねがね」よりひどくない?
誰もいない駐車場で「まじで?」と、ちょっと大きめの声でつぶやいた。

この日は2時間おきに4件のミーティングがあって、ずーっといろんな方の言葉を聞いていた。聞いてうなずいて、またきいて。その一つのクライアントさんからは「お子さんたちに」と美味しそうなチョコクロワッサンをいただいた。袋はいる?と言われて、なんとなく、「いりません」とキリッと伝えてカバンの中に入れた。

最後のミーティングは菜園のスターバックスで。閉店までみっちりとお話しした帰り道。いろんな言葉や表情を反芻しながら歩く菜園通り。飲み屋さんからはふわふわいいかおり。おなかすいた、早く帰ろう。

ん?
鍵と、財布と、ケータイが入ったチビポーチがない。大きいカバンにまとめたの?と、道路の端っこでガサガサしたけどない。くるっとスタバに引き返す。朝、忘れ物をしていたからか通常よりも判断が早い。お店に入るとすぐスタッフの方が「お忘れ物ですか?」と声をかけてくれた。なんだかほっとしてしまう。あった…よかった…。わたしのチビポーチは、スタッフルームで保管されていて、無事に再会。はーー、優しいみなさん、ほんとうにありがとう。

へろへろな自覚はあったが、おもったよりもずっとヘロヘロのようだ、とわかったのでコンビニでこどもたちにお土産を買って、安全運転だぞ!と言い聞かせながら速やかに帰路についた。
ただいまあああーーーと、情けない帰宅の挨拶をしながら階段を上がり、リビングへ。

座るというより、溶けるような格好で、あ、いただいたクロワッサンを渡さねば!と思って2人に声をかける。
まり「カバンの中にいただきものあるから食べてねー」
子「わーいありがとうーー!」
がさごそ・・・
子「あ、クロワッサンだー!」
まり「あ、これもおみやげ!コンビニで美味しそうだったからー」
子「え、まり、これもパン?どんだけパン買うの笑」

わあ、自覚なし。パンあるのに、パンのおみやげ買ってる。はあーーーとため息ついて、
「ちょっときいてよ、今日まりすごい日だったんだよ、おっちょこちょいの極み!」

駐車券忘れて、カバン忘れて、パンあるのも忘れてさ。と半べそで話したら、
「そんな日もあるよ」と二人に笑いながら言われ、まあ、そうかもなあと、心を持ち直す。
誰かを傷つけたり、悲しませたわけじゃないし。面白いくらい、ぽんぽんのこつこつのぽんこつだった日。



目次